𝐀𝐁𝐎𝐔𝐓 𝐏𝐀𝐑𝐀 𝐂𝐋𝐈𝐌𝐁𝐈𝐍𝐆
‐ パラクライミングについて ‐

𝐏𝐀𝐑𝐀 𝐂𝐋𝐈𝐌𝐁𝐈𝐍𝐆

- パラクライミング -


パラクライミングは、障害のある選手を対象としたスポーツクライミング競技です。選手たちは安全確保用のロープを使用しながら、高さ約15メートルの壁に挑み、その到達高度を競います。

壁には垂壁や前傾壁などさまざまな角度が設定されており、限られたホールド(手がかり・足がかり)を使いながら、一手一手をつないでゴールを目指します。使用するホールドや基本ルールはスポーツクライミングと共通していますが、選手それぞれの身体的特性に応じたムーブの工夫や空間把握、繊細な身体操作、そしてプレッシャーの中でも精度を発揮するメンタルの強さが求められます。

World Climbing(旧IFSC)が統括し、世界選手権やワールドカップなどの国際大会が開催されるれっきとした国際競技。日本でも国内大会が各地で行われており、競技人口は年々拡大しています。そしてパラクライミングは、2028年ロサンゼルスパラリンピックにおいてパラリンピック競技として初めて採用されることが決定しています。

今まさに、世界的な注目と成長の中にあるパラスポーツのひとつです。

#01 競技クラスについて

パラクライミングでは、障害の種類や程度によって選手がクラス分けされ、同じ条件の選手同士で競います。主なクラスは以下のとおりです。
クラス 対象
B(視覚障害) 視力・視野に障害のある選手
AU(上肢機能障害) 腕・手に障害のある選手
AL(下肢機能障害) 脚・足に障害のある選手
RP(関節・筋力・その他機能障害) 脳性麻痺・神経疾患などの選手

#02 視覚障害クラス(Bクラス)について

濵ノ上文哉選手が挑むBクラスは、視覚に障害のある選手が対象のカテゴリです。先天的・後天的を問わず、視力や視野に障害があり日常生活に支障をきたす選手が対象で、視力・視野の程度によってさらに3つのクラスに分類されます。
クラス 基準
B1 視力0.0025未満。競技中はアイマスク着用が義務
B2 視力0.0025〜0.032、または視野直径10度以内
▶濵ノ上文哉:視力約0.01、視野約5度
B3 視力0.04〜0.1、または視野直径40度以内

濵ノ上選手はB2クラスに属しています。わずかに光や輪郭を感じられる状態ではありますが、壁のホールドを正確に視認することはできません。研ぎ澄まされた感覚と、サイトガイドとの連携によって、高難度の壁に挑んでいます。

#03 特徴サイトガイドとの連携が最大の鍵

Bクラスの競技で欠かせない存在が「サイトガイド」です。

サイトガイドは壁の下から選手に向かって、ホールドの位置・形・距離・向きを声だけで伝えます。

「右手、2時、遠め、ガバ」

など、時計の位置で方向を示す“クロックポジション”を用いた伝達が一般的です。このような情報を頼りに、選手は音だけを信じて壁を登っていきます。サイトガイドとの深い信頼関係と、声を瞬時に「立体的な地図」へと変換する選手の空間認識能力——視覚障害クライミングはまさに声と身体が織りなす協働の競技です。

競技中、サイトガイドが使える情報伝達は「声のみ」。レーザーポインターや身体的接触は禁止されており、言葉だけで選手を導く技術と経験、そして選手との信頼関係が問われます。

実際の競技映像で見るサイトガイドの連携
サイトガイドの声と、選手の動きの一致をぜひご覧ください。
以下の映像は2024年の国内大会の様子です。当時はまだトランシーバーの使用が義務付けられていなかったため、サイトガイドが肉声で直接指示を出しており、声と動きの連動がよりダイレクトに伝わる映像となっています。クライミングに詳しい方にも、初めて見る方にも、ブラインドクライミングの臨場感をお楽しみいただけます。

#04 競技の流れ

パラクライミングの主要フォーマットはリード競技です。

① オブザベーション(観察タイム)
競技前に壁を目視で確認できる時間。Bクラスの選手はこの時間にサイトガイドから課題の内容を口頭で説明してもらい、頭の中でルートをイメージします。


② 登攀開始

制限時間内に、いかに高いホールドまで到達できるかを競います。途中で落ちた場合はその時点が記録となります。


 採点・順位決定
最終到達点のホールド位置によって順位が決まります。高さが同じ場合は、タイムや予選順位等で決着します。

図解:パラクライミング競技の流れ
図解:パラクライミング競技の流れ

#05 競技の魅力

「ほとんど見えないのに、なぜあんなに登れるのか」——初めて視覚障害クライミングを見た人の多くが、この問いを持ちます。

答えは、鍛え抜かれた感覚と、サイトガイドとの完全な信頼にあります。指先でホールドの形を読み取り、重心の移動を全身で計算し、サイトガイドの声を三次元の空間情報に変換する。その一連の動作が、前傾や垂壁など角度の異なる壁の上でリアルタイムに行われています。

健常者と同じ壁・同じルールで競技が行われるため、クライミング経験者には「自分なら絶対に無理だ」という純粋な驚きが、未経験者には「人間ってこんなことができるのか」という深い感動が生まれます。

#06 観戦の楽しみ方

① サイトガイドの存在を意識する

現在の大会では、サイトガイドの指示はトランシーバーを通じて選手に届けられるため、会場でその声を直接聞くことはほとんどありません。

しかし、選手の動きの一つひとつの裏には、的確なガイドの存在があります。見えない“もう一人の競技者”として、その存在を感じながら観戦するのも大きな魅力です。


② 選手の指先と重心に注目する
ホールドをつかんだ瞬間の指先の繊細な動き、そして次の一手を探るときのわずかな重心移動。目では見えていないはずなのに、身体が壁を「読んでいる」ことが伝わってきます。


③ 静寂と歓声のコントラストを楽しむ
選手が壁に向き合う時間、会場には独特の緊張感が漂います。一手ごとに状況が変わる中で、観客の視線が集中し、成功の瞬間には大きな歓声が生まれます。この一体感こそ、現地観戦ならではの魅力です。


④ 選手とサイトガイドの関係性を感じる
競技が終わった後、選手とサイトガイドが交わす表情やしぐさにも注目してみてください。言葉を超えた信頼関係が、そこに凝縮されています。


ぜひ一度、会場で生観戦してみてください。画面越しでは伝わらない緊張感と感動が、そこにあります。

#07 パラクライミング競技者を増やしたい

濵ノ上文哉選手のミッションのひとつは、パラクライミング競技者を増やすことです。

視覚障害者がクライミングをする、と聞くと「難しそう」「危なそう」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、サイトガイドさえいれば視覚障害者でも安全にクライミングができ、全国各地にパラクライミングに対応したジムや団体が存在します。

競技として本格的に取り組むことも、まず趣味として楽しんでみることも可能です。「やってみたい」「もっと知りたい」と思ったら、ぜひ気軽に連絡してみてください。

#08 なぜ、見えない人間が世界最強になれるのか

視覚障害者がクライミングをする——その事実だけでも、多くの人は驚きを覚えます。しかしブラインドクライミングの本当の凄さは、「見えないのに登れる」という一点にとどまりません。

クライミングは本来、壁のルートを目で読み、次の一手を瞬時に判断するスポーツです。視覚情報は、この競技における最大の武器といっても過言ではありません。その武器を持たずに、視覚のある選手と同じ壁・同じルールで戦う。それがブラインドクライミングという競技です。

サイトガイドの声だけを頼りに、指先でホールドの形を読み取り、全身の感覚で重心を制御する。視覚という情報源を持たないからこそ、身体の感覚は極限まで研ぎ澄まされていきます。ブラインドクライマーが持つ空間認識能力と身体制御の精度は、健常者のそれをはるかに超えるとも言われています。

#09 濵ノ上文哉という、規格外の存在

その過酷な競技の世界で、濵ノ上文哉選手は「世界一」という称号を手にしました。

2016年、26歳でパラクライミングと出会い、わずか2年で日本代表へ。初出場の世界選手権でいきなり銅メダルを獲得すると、2021年・2023年には世界選手権2連覇。ワールドカップ通算6勝。国内主要大会では2021年以降、無敗の10連勝を継続中。そして2018年度から2026年度まで、9年連続で日本代表に選出されています。

これは単なる「障害者スポーツの記録」ではありません。世界中の強豪と同じ壁で、同じルールで戦い続けた結果です。

視力約0.01、視野約5度。数字だけを見れば、それは重度の視覚障害です。しかし濵ノ上選手はその制約を、世界最高峰の身体感覚へと昇華させました。見えないからこそ辿り着けた場所が、確かにあったのです。

パラクライミングという競技が持つ可能性と、人間の身体が秘める底知れない力——その両方を体現しているのが、濵ノ上文哉という選手です。

𝐒𝐈𝐓𝐄 𝐈𝐍𝐃𝐄𝐗
  限界を超え、壁を登る。
𝐂𝐥𝐢𝐦𝐛 𝐁𝐞𝐲𝐨𝐧𝐝 𝐋𝐢𝐦𝐢𝐭𝐬.

BLIND-CLIMBER
𝐅𝐔𝐌𝐢𝐘𝐀 𝐇𝐀𝐌𝐀𝐍𝐎𝐔𝐄 
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